オムロン環境センサ入門 その1

オムロン環境センサBAG型&USB型

仕事や趣味の面で、温度・湿度・空気質といったデータをサクッと計測して、グラフ化したい。という場面に遭遇したことはないだろうか。

そんなときには、Raspberry Piをはじめとするシングルボードコンピュータと、相応のBLEセンサでお安く計測できる時代である。しかし、それら手製のキットでは、セットアップが面倒だったり、動作が不安定だったり、基盤むき出しだったりして、実用は無理でしょ!と思い悩んだことはないだろうか。

そんなときにオススメしたいのが、オムロン環境センサ(以下、環境センサ)である。価格は1万円~と、同種のBLEセンサタグと比較すると高価だが、計測可能な項目がとても多く、きちんとパッケージ化されているので置き場に困らない。そしてデータシート通りの誤差内で正確に測定できる。実用にはうってつけのセンサだ。

値段の感覚からすると企業向けセンサ製品かと思いきや、意外なことにプログラム不要で、スマホさえあれば遊べてしまう導入機のようにも設計されている。実際に1年ほど使用した結果、IoT初心者から上級者、企業のセンシングに至るまでまで幅広く扱えるセンサだと感じた。

このシリーズ記事では、環境センサの入門から計測したデータの見える化まで、かなり噛み砕いて紹介する。

私自信も「Raspberry PiのLチカしかやったことがないIoT初心者」という立ち位置で、難しいことは説明せず、コピペでどんどん進める形式となるよう工夫してしていく。自慢ではないが、私も初心者なので環境センサと葛藤しながら記事を書いている。

なお「入門」とあるが、センサ開発元のオムロンの許可はまったく受けておらず非公式だ。多少の妄想、思い込み、そして誤りが含まれることをご承知願う。

このシリーズ記事で学べること

  1. 環境センサの特徴を知る
  2. 環境センサの計測情報をスマホで見てみよう
  3. スマホで環境センサの設定を変えて遊んでみよう
  4. Raspberry Piと接続して、環境センサの計測データを取得してみよう
  5. Raspberry Piでデータの見える化(グラフ化)をしよう
  6. 環境センサUSB型&PCでデータを確実に取得する

環境センサ USB型 2JCIE-BU01
OMRON
環境センサ USB型 2JCIE-BU01
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環境センサ BAG型 2JCIE-BL01
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環境センサ BAG型 2JCIE-BL01
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環境センサの特徴を知る

オムロン環境センサBAG型&USB型
オムロン環境センサ BAG型とUSB型

オムロン環境センサは「USB型・BAG型・PCB型」3種類が販売されている。この中で実用できるものは、パッケージングされているUSB型BAG型なので、記事ではこれら2種類に絞って紹介する。

USB型とBAG型 共通の特徴

思いつく共通の特徴をざっと列挙する。

  • 親機とBLE(Bluetooth Low Energy)で計測情報を通信する。通信距離は見通し10mが限界
  • センサ側のプログラムを変更できる。計測間隔や内容など、多岐に亘ってカスタマイズできる
  • 環境センサ用のスマホアプリで計測データをリアルタイムに取得可能
  • Raspberry Piなどの自作プログラム(サンプルプログラム有)でデータを取得できる

オムロン環境センサの専用スマホアプリがあったり、データシートがしっかりしていたり、GitHubにサンプルプログラムがあったりと、サポート面も非常に手厚い。さすが1万円以上するセンサだ。

専用アプリを利用すると、Raspberry Piのようなゲートウェイ不要、プログラミング不要で計測できてしまう。この点は計測ニーズに対する導入ハードルをぐっと下げており、初心者にもオススメできる最大のポイントだ。

私の経験でもあるが、IoTを勉強しようと思って購入したRaspberry Piやセンサ、ブレッドボードは一度試して満足した後は、応用するシーンもなく押入れ行きになる。

そして、1年後ぐらいにふと思い出して温湿度を計測したいとなったとき、Raspberry Piとセンサをどう配線したら良いかも忘れているし、OSもアップデートする必要がある。結局いちからやり直しで準備までに半日かかってしまう。結局、思い立ったが吉日で行動できないのだ。

一方で、この環境センサはスマホさえあれば、たった数秒で計測を開始できる。アプリの使い方に悩む必要もなく、簡単・手軽・スピーディに計測が可能だ。せっかく購入したセンサデバイスを一生無駄にせず使い続けることができる。

値段は高いが決して損はしない、そんなセンサになっている。

USB型とBAG型の違い

両者の違いを簡単に説明すると、
1. 電源方式
2. 計測項目
3. センサの付加価値
この3点だ(3番目のまとめ方が雑で申し訳ない)。

1.電源方式
  • USB型・・・USB給電で動作する
  • BAG型・・・コイン電池(CR2032x1個)で動作する

シンプルで明瞭な違いだ。というもの、USB型とBAG型はセンサの利用シーンがしっかり区別されている。

USB型は「長時間安定した計測が必要」なシーンに最適だ。USB給電を受けて動作するため別電源が必要である。したがって、電源を取得可能な屋内での利用が考えられる。

BAG型はコイン電池で動作する。そのため電源の取得が難しい屋外での利用や、頻繁にセンサの設置場所を変えたい場面で活躍する。一方で、所詮は電池なので交換が必要だ。計測間隔に大きく左右されるが、長く保って半年くらいと思っていれば良い。

BAG型のボタン電池挿入部。パッキンがあるため裏蓋が固く開けにくい

総じて扱いやすいのは電源不要のBAG型のように思われるかもしれないが、そうとも言えない。

スマホのモバイルバッテリにUSB型を挿入してしまえば、BAG型同様のコンセント不要なちょい計りができてしまう。USB給電での長時間計測&持ち運びもできる二刀流のセンサとなり得るのだ。

USB型はモバイルバッテリでも稼働するが、数分で自動電源オフになる

USB型をモバイルバッテリで使用する際の注意点がある。センサの消費電力があまりにも小さいので、自動的に電源がOFFになってしまうバッテリが殆どである。その際はUSB出力が2口以上のモバイルバッテリを用意して、センサとはもう一方の口にLEDライトのような負荷の大きいデバイスを接続しておけば自動で電源が切れる心配はなくなる。

USB型・BAG型、どちらのセンサ使うかは、以下の計測項目の内容と勘案して決めるのが良いだろう。ちなみに、私は両方のセンサを保有しているがUSB型を好んで使っている。BAG型の電池交換が面倒で性に合わないからだ。

2. 計測項目

USB型とBAG型はオムロンが想定する利用シーンが異なっているため、搭載されているセンサの種類も異なっている。

センサ 計測項目・検出可能範囲・精度

USB型
2JCIE-BU
温度:-10 ~ 60℃ ±2℃
湿度:30~85%RH ±5%RH
照度:10~2000lx ±100 lx

気圧:700~1100hPa ± 4hPa
騒音:40~94dB ※参考値

3軸加速度:-2000~2000gal ※参考値
総揮発性有機化合物濃度(eTVOC):0~32767ppb ※参考値

二酸化炭素濃度(eCO2)
不快指数 熱中症警戒度(WBGT)

振動情報

BAG型
2JCIE-BL
温度:-10 ~ 60℃ ±2℃
湿度:30~85%RH ±5%RH
照度:10~2000lx ±100 lx
気圧:700~1100hPa ± 4hPa
騒音:37~89dB ※参考値
紫外線(UV Index)
不快指数 熱中症警戒度
各環境センサの計測項目詳細

環境センサーから得られる値の特徴は、項目によっては実際の計測値ではなく、近似値や計算値を出力する点だろう。

上の表のうち、黒文字は実際のセンサーから取得している正確な値、青文字は近似値、緑文字はセンサー値や参考値から計算した値であることをを示している。

たとえば、騒音やeTVOC(空気質のようなもの。詳しくは後で説明)は、業界で求められる規格の仕様を満足するセンサ自体が高価かつ大型である。その一方で簡易的な計測ができるセンサも広く販売されており、数百円から入手可能だ。

ただし、安価な簡易センサから出力される値は、その名のとおり正確ではなく参考値でしかない。測定状況によって誤差も大きく変化する。この環境センサに関しても、安価な簡易センサを用いているため、スペック上でも参考値としていると考えられる。

eTVOC(equivalent Total Volatile Organic Compound)
TVOCとは総揮発性有機化合物濃度のことで、シックハウスの原因になる物質の総称を指す。そして、頭にeがつくが、このUSB型は正確なTVOCを測定はできず、内蔵したガスセンサで計測したTVOC近似値を出力する仕組みとなっているようだ。したがって、eTVOCの値はあくまでも相当値(equibalent)でしかない。

そもそも「TVOC」を耳にしたことがある人は少ないのではないだろうか。海外の展示会などでは、VOCセンシングのソリューションはよく目につき、話を聞くと屋外や公共施設のVOC計測値を公開している国もあるようだ。

一方、日本ではシックハウスや空気の汚れを気にするお国柄ではないのだろうか、VOCというワードは浸透していない。類似ワードとして「空気質」や「空気の汚れ」のような便利な曖昧語があるので、記事ではこっちをメインに使うこととする。

計算値ではあるが、eCO2(equivalent CO2)も取得できる。空気質同様、ガスセンサからCO2の近似値を取得しているようなので、”equivalent” が付加している。CO2センサは高額かつ大型であり、趣味の領域で買える値段ではない。目安の値を計測できるだけでもありがたい。

3.センサの付加価値

USB型:お尻のLEDがエロく光る!本体がとても小さい
BAG型:フックに引っ掛けられる!生活防水もあり

USB型

唐突に卑猥な表現で申し訳ない。しかし、まるでホテルの風呂のよう煌びやかに、そしてヌルりと輝く温湿度センサはかつてあっただろうか!私は見たことがなかった。そう、このUSB型にはフルカラーLEDが付属している。

このLEDが大変よくできてて、温度や湿度といった環境の変化に応じて、自動で色を変化させられる代物になっている。例えば現在の温度にあわせてLEDを変化させるような使い道だ。

デフォルトでは無効化されているが、スマホから設定を変えられるので初心者にはうってつけの機能。環境の変化を「色」で察知するという面白い試みだ。

もう一つの付加価値。センサそのものの小ささである。無線マウスのレシーバーと同等サイズの筐体に、7項目が計測可能なセンサとBLE無線部、その他諸々を収めている。お手製のブレッドボード上に組んだ温湿度センサがいかに大きく非効率だったか、改めて実感する。

BAG型

その名の通り、バッグ型の筐体になっている。センサの勘所として「どこにでも置ける」は重要な要素である。測りたい場所に正確に置けないのであれば、その時点で計測値の信ぴょう性が損なわれてしまう。

その点ではこのBAG型は、電池駆動という利点と、その形状で「どこにでも置ける」センサになっている。

平置き・立て置き、そしてフックを使えば空中にも置ける。

このBAG型の形が絶妙なのだ。引っ掛ける穴が大口なので、ロープ、ワイヤー、S字フックなど比較的自由に通すことができる。その場にある些細な道具で空中に設置できるので、測りたい位置にベスポジで置けるセンサになっている(テキサスインスツルメンツのBLEセンサは、穴はあるけど小さくてとても使いにくいのだよ) 。

最後に、メーカー仕様では防水を謳っていないが、電池蓋にパッキンが付属しており、簡単には浸水しない構造になっている。そのため、直接雨にに当たらないひさしのある屋外やベランダ、ビニールハウス内のような多湿な場所に設置しても問題ないだろう。

こんな使い方があったのか!

環境センサはパッケージ化されていて扱いやすく、計測項目が多い特徴を活かして、様々なシーンで活用されている。Twitterで見つけた心温まる使用方法があったので紹介する。

IKEA風クロック

M5Stackを活用して、環境センサのデータを面白く表示させている。本体側(M5Stack)はスッキリまとまっていて実用性も高い。M5Stack持っていないけど真似してみたくなる一品。

ラジコンカー

環境センサのBAG型で加速度を検知して、ラジコンを作ってしまったすごい人。照度センサを指で暗くするとラジコンのLEDライトが光るこだわりの一品。

仕様上だとBAG型の計測項目に加速度の記載がない。しかし、実は基板上に加速度センサがあってデータが取れるようだ。こういう、「きちんとデータシートを見ると意外な記載がある」ところも環境センサの面白さだと思う。

次の章では

この章ではオムロン環境センサの種類(USB型・BAG型)と特徴を紹介した。

次回は、スマホを使って環境センサのデータを取得する方法を紹介する。

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