前回の続きとなる記事である。
Ryzen 7 5800Xが熱すぎて翻弄された話Ryzen 7 5800Xが動画のエンコード作業時にCPU温度が90℃に到達してしまい、性能を十分に発揮できていない可能性があること。加えて、CPUクーラーのファンの轟音が我慢ならなかった。
そこで、Ryzen 7 5800Xを空冷で静かに冷やすことに注力したので紹介したい。
結果、CPUクーラーの交換とエアフローの改善でCPU温度をマイナス4.4℃、騒音を6.5dB抑えることができた。
なぜ空冷にこだわるのか
使っているPCケースが古すぎて簡易水冷のラジエーターを設置できない。ゆえに空冷CPUクーラーを選択肢するしかないというのが1番の理由。
AntecのP183というミドルタワーケースを愛用しているが、2009年製の準ヴィンテージ品でフロントパネルにはUSB3.0すら存在しない。
そんなことで、ラジエーターを設置するスペースがそもそもなく、簡易水冷を選べない。まぁ無理に設置する手もあるが、美しくないのは気にくわない。
簡易水冷対応のPCケースを購入するのも一案。だけどP183のケースを長年使ってきて配線スペースだとか機器の設置に慣れすぎたこともあって、なかなか手放せずにいる。
P183を超えるワタシ好みな理想のケースが現れないのも事実。 5インチベイとか3.5インチベイのスペースが減っているのに、ミドルタワーケースは大きいままじゃない。もう少しコンパクトになってもいいんじゃない?
今回購入したもの
CPUクーラー Noctua NH-D15
- ヒートシンクが素敵な大型のハイエンドクーラー
- 140mmの大型冷却ファンを贅沢に2基も搭載。低回転でもしっかり冷やせることが最大の利点
- Noctuaのウン、、、落ち着いた色が好き
空冷でCPUを冷やしたいなら、今までのCPUクーラーよりも大型のヒートシンクで、かつ大口径ファンを有するクーラーに換装するのが手っ取り早い。
そこで、前に購入したNoctua製ケースファン NF-A12x25の性能、中でも静音性が気に入っていたので、CPUクーラーもNoctuaのハイエンドモデルにあこがれていたのだ。
写真ではその大きさが伝わりにくい。「こんな化け物みたいなクーラーがケースに入るんかい」と心配になるサイズ感。どういう訳かAMD推奨クーラーにも選ばれているので冷えないワケがないよね。
ケースファン Thermaltake TOUGHFAN 12
- 例の高級クーラーの性能に匹敵するという噂のファン
- ケース内の見えない部分に設置するのでコスパ重視でこちらを選択
ケース内のエアフロー改善用として120mmのファンを2つ追加購入した。
Noctua NH-D15の購入でお小遣いを使い切ってしまったので、なけなしのへそくりで噂のファンを選択。
Noctua NH-D15がケースに収まらない
お気に入りのPCケース(Antec P183)に設置できるCPUクーラー高さはだいたい168mmまでのよう。NH-D15の全体高はファンを含めても165mmと事前に調べていたので、なんとか収まるだろうと考えていた。
だがしかし、事件は起こるものだ。
2基目のファンを設置してみると、明らかにケースからファンのフレームが\コンニチハ/している。
原因は単純だ。2基目の大型ファンがメモリとごっつんこしてケース限界である168mmの高さを超えている。
メモリにはおまけ程度(5mm高さ)のヒートシンクがついているだけなのに、まさかこいつと干渉するとは想像していなかった。今どきのギラギラLEDやツンツンしたヒートシンクがついたメモリだと余計に干渉するよね。
ちゃんと調べていればファンとメモリが干渉することくらい、初めから分かったんじゃない
ホントいつも行き当たりばっかりで自分の性格がうまく表現できている。
メモリとの干渉を考えると、2基目のファンを設置したいなら175mmの高さのCPUクーラーが設置できるPCケースが目安になりそうだ。このCPUクーラーがすっぽり収まるケースってそんなに無いんじゃないかな。
こんな試行錯誤もロマンだし、自作PC愛好家のたしなみでしょう。プラス思考でいいじゃない。
フタが閉まらないのでNH-D15の2基目を120mmのファンに
NH-D15は140mmの付属ファン1基でも十分に冷えるらしいが、どうせならファンを2基取り付けたい!
そこでケースファンとして使っていたNoctua NF-A12x25を装着してみた。
NH-D15付属の固定金具で120mmファンを無理なく固定できることもメリットの1つかもしれない。余ってしまったNoctua 140mmファンの使いどころがないのがとても残念だ。
さらにケースファンを追加してエアフローを改善
排気ファンとしてNoctua NF-A12x25を2基設置しているが、この際、徹底的にエアフローを改善しようと、Thermaltake TOUGHFAN 12 をケース前面へ2基増設した。
これまでケースへの吸気は120mmファン1基で運用していた。吸気ファンを2基に増やせば、涼しい外気を多く取り込めるはず。
というかThermaltake TOUGHFAN 12 は安いのに、モノがいい。
使わないであろう付属品がNoctua製と見劣りしないし、ファンのブレードやフレームの素材がずっしりして高級感がある。
個人的な感覚にすぎないけど、このファンで1000rpmの回転数ならノイズは気にならないレベルだし、Noctua NF-A12x25と遜色ない静音性能だと思う。
Noctua教の信仰者でなければTOUGHFAN 12 は立派な選択肢になる。何よりコスパ最強じゃないかな。
さて、大型空冷CPUクーラーにケースファン4基の設置で、ガワだけならかなりハイエンドPCと呼べるようになってきた気がする。
ケース内のパーツ総額と重量が過去最高値を更新してしまった。
とくに重量がさらに重くなったのが辛くて、PCを移動させるときに腰をやってしまわないか不安になる重さだ。
ベンチマークで冷却性能の効果を測定
CPUクーラー交換の前後で、アイドル時/Cinebench R23/15分の動画エンコードを行ったときの
・CPU温度
・PCケース内騒音
・CPUクロック周波数
を計測して評価した。
測定条件
室温:25.0℃
PCケース内温度: 25.9℃
※PCケースはすべての蓋を閉め、実使用の状態で測定
その他条件
UEFI上でのオーバークロック設定は行わず、デフォルトの状態だ。またファン回転数もデフォルト(メーカー任せ)の状態で比較している。
CPU温度の比較
Noctua NH-D15に交換したことで、旧CPUクーラー(Enermax ETS-T50AXE)と比べて アイドル時でマイナス4.4℃、負荷をかけたCinebenchではマイナス4.9℃ものCPU温度を下げることができた。
高負荷の処理が10分以上続く動画エンコードでは平均82.7℃だったので、80℃は超えちゃってはいるけど、CPU最大温度仕様の90℃到達まではまだまだ余裕な様子。
この程度なら、室温とケース内温度が高くなる夏場でもCPU温度を気にせず負荷の高い作業ができそうね。
まずはRyzen 7 5800Xの熱いCPU温度を下げるという目標は達成できた。めでたし
PCケース内騒音の比較
次は精神的苦痛(騒音)の駆除だ。
騒音の計測はPCケース内に設置したオムロン環境センサで行った。簡易センサなので測定値はおおよその目安にしかならないが、参考とするには十分だ。
それで、交換前のCPUクーラーと騒音を比較したグラフがこちら。
おおおぉ、初っ端のアイドル状態から6.5dBもの騒音の差が出てるじゃん。
理由は単純で、交換後のNH-D15が140mmファンだからだね。
アイドル時のCPUファンの回転数はそれぞれ次の通りで、この回転数の差がモロに騒音の差となって現れた。
・ETS-T50AXE:1200rpm
・NH-D15:730rpm
Cinebenchや動画エンコードといったCPU負荷のかかる作業でも、NH-D15は比較的静な状態でそこまで騒音が気にならない。
動画エンコードだとCPU温度が80℃を超えるので、さすがのNH-D15も回転数100%でCPUファンが回るのだが、それでもたかだか1500rpmなので耳障りな騒音ではない。
この計測でNoctua NH-D15の静音性能の良さと、140mmファンの威力に痛感してしまった。というか、もう120mmファンのCPUクーラーに戻れない気がする。
こりゃ、また自作PC沼にハマっちまったな!
CPUクロック周波数の比較
最後にCPU性能を発揮できているかどうかを検証したい。Cinebench R23とH.264動画エンコード時にCPUクロック周波数の平均を取ってみた。
CPUクーラーの冷却性能の違いがクロック周波数の差にも顕著に出ていて、NH-D15では高負荷時でもクロック周波数を60~100MHz高く運用できている。
これはNH-D15の冷却性能が高いことでCPU温度に余裕ができて、その恩恵でPrecision Boost 2やXFR 2(Extended Frequency Range)といったRyzenのブースト機能がさらに強まったからだろう。
この辺で勘づくと思うが、NH-D15は比較対象のETS-T50AXEよりも冷却性能が高く、CPUを高クロック周波数で運用できる。
つまり、今までの測定はクロック周波数の上限が違うので同じ条件とは言えず、比較の上ではNH-D15が不利だ。
今回はすべてUEFIがオートの条件で、普段使いを想定したCPU温度や騒音の測定が目的だったからクロック周波数がブーストされることまで気が回らなかった。今後のベンチマークに活かしていこうかな。
ケースファンの評価
省略!
というのは冗談で、本当は効果がそれほど出なかったのだ。
もともと排熱用のケースファンが2基&吸気用のファンが1基あったところに、さらに吸気ファンを1個追加したところでグラフにするほど成果が見えなかった。
見いだせた効果としては、動画エンコードのようにCPU負荷が長時間かかるときに、ケース内温度が平均マイナス1℃、CPU温度が平均マイナス0.8℃くらい変わった。
CPUクーラー交換の成果に比べれば誤差みたいなもんだけど、ケース内温度が少しでも下がるのならばCPUだけでなくグラボの静音化にも影響する。無いよりは良い。そんな評価です。
まとめ
CPUクーラーを大型ハイエンド品のNoctua NH-D15に替えたところ、アイドル時でもCPU温度をマイナス4.4℃、騒音を6.5dB抑えることができたのは素直に嬉しい。
冷却性能が高い分、CPUクロック周波数のブーストがかかるのでベンチマーク性能もアップした。
NH-D15は空冷では最強の部類に入るけど、決してお安いCPUクーラーではない。同じ値段なら簡易水冷も選べる。
ただ、その大きさはやっぱりロマンだし、水冷特有のいろんな心配をしなくていいのは精神面でもありがたい。
これだけは言いたいのは、これからのデスクトップ向けCPUの進化でRyzen 7 5800X以上に発熱が大きくなっちゃうと空冷で静音を目指すのは厳しい。次は水冷に切り替えるしかないかなぁ。ツラミ。