ゲームサーバーを兼ね備えたホームネットワークストレージとして愛用してきたQNAP製NAS「TS-253D」であったが、性能不足に悩んでいた。とりわけ、メモリを32GBへ増設することが仕様上難しく、PalWorldのゲームサーバー稼働でギリギリ、追加でVMを動かす余裕もなかった。
QNAP TS-253Dのメモリを16GBに増設。2連続失敗からの成功!流行りのミニPCへゲームサーバーを移すことも考えたが、NASとサーバーどちらも24時間稼働させたいし、別々に動かすのは管理が面倒だったり電気代がもったいない。
こうなったらNASをアップグレードするしかない!とQNAP製NASのラインナップを眺めたが、16GB超えのメモリを扱えるCore i やRyzenを搭載した高性能NASはどれも高く、価格は10万円を優に超える。SynologyのNASも同様に非力なものばかりで、満足いく性能のNASは出ていない。
そんななか、安価だが怪しいNASとしてワタシの中では有名なTerraMasterから新製品「F4-424シリーズ」が発売された。
このF4-424シリーズNASはIntel 第13世代Core(Alder Lake-N)を搭載していることが特徴で、N95(4コア/4スレッド/最大3.4GHz)と、Core i3-N305(8コア/8スレッド/最大3.8GHz)の2種類のCPUモデルがラインナップしている。※さらにIntel Core i5-1235Uを積んだ上位モデルも追加された。
どちらもミニPCではおなじみのハイコスパCPUだが、逸般の誤家庭やSOHO向けNASとしては、2024年時点で最も高性能な製品となる。しかも10万以下とお安い。
今回、Core i3-N305を搭載したTerraMaster FS-424 Proを購入し、実際に8ヶ月以上運用してきて実感したTerraMaster NASの良し悪しをレビューする。
TerraMasterは中国の深圳で2010年に創立されたNASとDAS(ダイレクトアタッチストレージ)を専門に扱う会社で、SOHOからビジネス向けの製品を取り扱っている。
とりわけ販路が独特で、大型ECのみでの取り扱いに限られている。日本ではAmazonと楽天のTerraMaster直販店だけでしか買えず、楽天では最新のF4-424シリーズが取り扱われていないなど、購入可能な商品に違いがある。
NASメーカーで有名なQNAPと比較すると、従業員数はTerraMaster(200人)とQNAP(1200人)で6倍もの差があり、サポート体制やOSセキュリティアップデートの頻度など気になるところではあるが、新興のUGREENのようにNASとして致命的な欠陥は見られない模様。
他のNASメーカー同様、OSの脆弱性を突いたランサムウェアの被害にあっているので、NASをインターネット上に公開する運用はおすすめしない。
製品名 | F4-424 Max | F4-424 Pro | F4-424 | F2-424 |
---|---|---|---|---|
外観 | ||||
CPU | Intel Core i5-1235U (10C/12T/最大4.4GHz) | Intel Core i3-N305 (8C/8T/最大3.8GHz) | Intel N95 (4C/4T/最大3.4GHz) | Intel N95 (4C/4T/最大3.4GHz) |
搭載メモリ | 8 GB x 1 | 32 GB x 1 | 8 GB x 1 | 8 GB x 1 |
メモリスロット | 2 (最大64 GB) DDR5 SODIMM | 1 (最大32 GB) DDR5 SODIMM | 1 (最大32 GB) DDR5 SODIMM | 1 (最大32 GB) DDR5 SODIMM |
HDDベイ | 4 | 4 | 4 | 2 |
NVMeスロット | M.2 2280 x 2 (PCI-E Gen4 x 4) | M.2 2280 x 2 (PCI-E Gen3 x 1) | M.2 2280 x 2 (PCI-E Gen3 x 1) | M.2 2280 x 2 (PCI-E Gen3 x 1) |
LAN IF | 10 GbE x 2 | 2.5 GbE x 2 | 2.5 GbE x 2 | 2.5 GbE x 2 |
USB | Type A x 2 (10 Gbps) Type C x 1 (10 Gbps) | Type A x 1 (10 Gbps) Type C x 1 (10 Gbps) | Type A x 1 (10 Gbps) Type C x 1 (10 Gbps) | Type A x 1 (10 Gbps) Type C x 1 (10 Gbps) |
HDMI | 1 | 1 | 1 | 1 |
消費電力 (最大/アイドル) | 46 W / 17.5 W | 33 W / 13 W | 33 W / 13 W | 22 W / 11 W |
価格 (Amazonセール目安) | 134,990円 | 98,990円 (79,192円) | 69,990円 (52,493円) | 53,990円 (43,192円) |
ブログを書き溜めているうちに、F4-424 Maxという、12世代のCore i5-1235Uを搭載した新製品が登場してしまった。
F4-424 Maxはメモリを最大2枚まで使えるし、PCI-E Gen4も扱えたりと反則級の出来である。価格もそれなりに高いが、NASの用途を考えながらカスタムオーダーのように性能を選択できるのはいいところだ。
下位モデルのF2-424やF4-424は、CPUにIntel N100ではなく、ベースクロックの高いN95をチョイスしている。
外観としてはF4-424シリーズで同じエンクロージャが使われているようで、コストが徹底的に抑えられている。その一方で見た目のつまらなさは致し方ないところ。
今回、レビューするTerraMaster F4-424 Proにスコープを当てて、他メーカーの同価格帯NASと性能を比較した。
メーカー | TerraMaster | QNAP | Synology |
---|---|---|---|
製品名 | F4-424 Pro | TS-464 | DS923+ |
外観 | |||
CPU | Intel Core i3-N305 (8C/8T/最大3.8 GHz) | Intel Celeron N5095 (4C/4T/最大2.9 GHz) | AMD Ryzen R1600 (2C/4T/最大3.1 GHz) |
搭載メモリ | 32 GB x 1 | 8 GB x 1 | 4 GB x 1 |
メモリスロット | 1 (最大32 GB) DDR5 SODIMM | 2 (最大16 GB) DDR4 SODIMM | 2 (最大32 GB) DDR4 SODIMM |
HDDベイ | 4 | 4 | 4 |
NVMeスロット | M.2 2280 x 2 (PCI-E Gen3 x 1) | M.2 2280 x 2 (PCI-E Gen3 x 1) | M.2 2280 x 2 (PCI-E Gen3 x ?) |
LAN IF | 2.5 GbE x 2 | 2.5 GbE x 2 | 1 GbE x 1 |
USB | Type A x 2 (10 Gbps) | Type A x 2 (10 Gbps) | Type A x 2 (10 Gbps) |
PCI-E スロット | なし | 1 (Gen3 x 2) | 1 (Gen3 x 2) |
消費電力 (最大/アイドル) | 33 W / 13 W | 40.5 W / 21.6 W | 35.5 W / 11.5 W |
価格 (Amazonセール目安) | 98,990円 (79,192円) | 103,000円 | 97,000円 |
NASはスペックだけでは単純比較できず、OSやサポート含め価格と照らし合わせるべきだとは重々わかっているつもりだが、こう並べてみるとTerraMasterのコスパの良さは際立っている。
QNAPやSynologyは数世代前のCPUと最低限のメモリ構成、という感じで、あくまでもNAS(ネットワークストレージ)の用途に焦点を置いたラインナップになっている。一方のTerraMasterのF4シリーズはCPU性能が高く、NAS&サーバー用途をターゲットにしている点が印象的だ。
F4-424 Proの消費電力はアイドル状態で13Wで、2-3世代前のCPUを使う他メーカーのNASとでは、ワットパフォーマンスがずば抜けて良い。
ただし、TerraMasterのF4-424シリーズには拡張用のPCI-Eスロットがないので、LANカードの増設ができず、ネットワーク帯域は2.5 GbE(リンクアグリゲーション可)で頭打ちだ。
ワタシは2.5 GbEスイッチしか持っていないので、これ以上のネットワーク性能を求めないが、F4-424 Proはネットワークの拡張性が弱みだと思う。10 GbEが必要ならば上位モデルのF4-424 Maxを買いましょう。
ここからはハードウェア視点で気になったところを簡単に紹介する。
TerraMasterはメジャーと言えるNASメーカーではないので、セットアップでハマるのではないかと心配していたが、全くの杞憂だった。
QNAPのNASと同じように、ストレージを装着して電源を入れ、DHCPサーバからNASをに割当られたIPアドレスに対しWebブラウザでアクセスすればセットアップ画面が開く。
あとは画面の指示に従ってアカウントを設定したりポチポチクリックしていけば、10分足らずでセットアップが終わってQTS(QNAPのOS)のような見慣れたデスクトップ画面に移る。TerraMasterのOSだから「TOS」と呼ばれている。
TRAID(3TB HDD × 3台)の構成後にPCからのアクセス速度を測定した。PCとNASは2.5GbEで直結している。TRAIDの方はSSDキャッシュなど余計なものは付けていない。
CrystalDiskMarkの結果のとおり、TRAIDとSSDどちらもほぼ変わらないアクセス速度となった。2.5GbEのネットワークがボトルネックとなってしまっている。
2.5GbEの速度を超えるロマンは今のところ求めていないし、正直TRAIDのアクセス速度には満足している。まぁRAID 5でも速度的には同じ結果になると思うが。
忘れてはいけないのが、このNASを買う目的でもあったゲームサーバーのゆったり運用。
重ためのゲームサーバーである「Soulmask」をDockerで動かした状態であるが、CPU使用率は5%前後、メモリ使用率は40%以下で稼働している。これならもう1本ゲームサーバを建てたり、VMを動かすくらいの余裕がある。
QNAPでSoulmaskのゲームサーバを稼働したときは、CPU使用率は50%越え、16GBに増設したメモリも100%に近く消費していて、全く余力のない、むしろゲームがカクついたり瞬間移動するような状況だった。
TerraMasterのF4-424 Proに乗り換えたことでストレスフリーなゲームサーバーが運用できるのはホント幸せである。ゲームサーバーだけならIntel N100搭載のミニPCでも問題ないだろうが、24時間稼働させるサーバーという観点ではNASのほうが信頼できる。
ワタシ自身、少々な逸般の誤家庭ながらQNAPのNASとそのOS(QTS)を10年以上愛用してきた自負があるが、QNAPで当たり前のようにできて、TerraMasterでは出来ないことが多いように感じている。
TerraMasterはその分お値段が安いんだから、そこは自分でなんとかせえ!と言われているようだが、どうにもならない局面もあるので、少々マニアックかもしれないが紹介したい。
LANは2ポートあるんだから、両ポート対応でもいいじゃない。こんなところまでコストカットが波及しているのだろうか。この様変わりな仕様はスペックシートに記載がなくて、設定するまで気づかなかった。
システムログといいつつ、HTTPやSSHといったサービスのアクセスログしか残らない。停電やら起動失敗といったシステムイベントはTOSデスクトップの右上に出てくるポップアップだけが頼り(メール通知もできるけどね)。ポップアップの閉じるボタンを押せば闇の中だ。
NASを再起動するとDockerEngineが自動起動せず、当然、コンテナの起動に失敗してしまう。TerraMasterのフォーラムで症状が報告されている。なんて致命的なんだっ!
解決策とはしては、次のコマンドラインでDockerEngineを手動起動させるのだ。
[admin@TNAS-83B9 ~]# /etc/init.d/DockerEngine start
この起動コマンドを「スケジュールタスク」に登録すればよい。
このTOSのスケジュールタスク機能がホント有能で、GUIで細かくタスクを登録したり管理することができる。この機能だけはQNAPも見習ってほしい。
またDockerがらみ。
TOSでのDocker管理はDocker ManagerというTerraMaster謹製アプリで行うのだが、これが適当すぎる。コンテナ作成にエラーがあっても「エラー」としか言ってくれない。
しまいには別のDocker管理ツールである「Portainer」を利用せよと公式が紹介しているレベルだ。今はありがたくPortainerを使って管理している。
QNAPの場合、Dockerの管理周りをGUIで細かいところまで設定できたし、よく出来ていたなぁと思う。
そう、TerraMasterはNASなのだ。大事な役目はデータを貯めることと、もしものときの障害から守ること。なのでデータバックアップのアプリは大事なのだけど、それがいまいちだった。
下の写真は任意ディレクトリのバックアップを決められたスケジュールで取ってくれるスナップショットアプリなのだが、ありがちな「毎月1日時点のデータと直近の7日分を残す」という感じのデータ保持ができない。過去n回分のスナップショット保管という超シンプルな指定しかできず、QNAPでは出来たのになぁと不満が出てしまう。
さらにもう一つ不満がある。
バックアップ元のディレクトリに「Dockerを含むアプリ全般のデータディレクトリ(\Volune*\@app)」を指定できないのだ。これではDockerコンテナで動かしているゲームサーバのデータのバックアップが取れない。
仕方がないので、Rsyncコマンドをスケジュールタスクで定期的に動かして、アプリデータを別ディレクトリに定期的に同期させておき、それのスナップショットを取る、というまどろっこしい運用をしている。これもQNAPなら(略)
小ネタではあるが、TOSのVMアプリ(Virtial box)では本体に挿入されたUSBをVM側へバイパスすることができない。
QNAPのVMでは当然のようにできるのに。このせいで録画サーバをQNAPからTerraMasterへ移行できず、しぶしぶラズパイで動かすハメになった。
これまで書いた不満はNASではなく、どちらかというとサーバー用途としての不満。NASとしてはあまり困ったことはない。
アプリが少ないといったサーバー用途での不満は、DockerやEntwareを使って自ら解決できる環境が整っている。Entwareのインストールは次のリンクと全く同じとおりで問題なかった。
公式WebサイトにTOSのライブデモがちゃんとある。ログインするとだいたいロシア語に設定されているので、そっと日本語に直しておきましょう。
https://www.terra-master.com/jp/live-demo
このNASの文句は言うだけ言った。反対の視点で考えると、これ以上のアラは見つかっていない訳だ。
レビューではQNAPとの使用感の違いを挙げているが、NASのOSが違えば叶わないことがあるのは仕方がない。むしろ、これからのTerraMasterの伸びしろに期待したい。
NASとしてもサーバーとしても8ヶ月以上、不具合もなく稼働しているし、ファンの音は静かだし、リブートは早いし、TOSのGUI(デスクトップ)もサクサク動くしでストレスを感じさせない。
使用前は“玄人向けの自分で解決しないといけないNAS”という印象が強かったが、実際は“万人が使えるコスパ全振りNAS”だった。
NASをサーバー代わりに使ってみたい変わったさんには一番オススメしたいNASだ。
mimimopu 担当者 mimo様
こんにちは。
TERRAMASTERの日本市場部のVionaと申します。
このたびは、製品について非常に詳細な評価をいただき、誠にありがとうございます。
ご指摘いただいた点については、技術部門に確認の上、後日ご連絡させていただきます。
もし使用上でご不明な点がございましたら、どうぞお気軽にご連絡くださいませ。
ご迷惑をかけて申し訳ございません
よろしくお願いします。