レビュー|IPoE対応のArcher AX73でどれほどWi-Fiは快適になるのか

IPv6(IPoE)のMAP-E(v6プラス・v6アルファ)とDS-Lite(transix・クロスパス)に対応した、ハイエンドかつコスパ優秀なWi-Fi 6ルーターが2021年3月10日に誕生した。その名はArcher AX73、TP-LINK製だ。発売日に購入し、その性能を検証しようと早速レビューを行った。

Archer AX73 Wi-Fi6 無線LAN ルーター
TP-Link
Archer AX73 Wi-Fi6 無線LAN ルーター
Amazon_logoAmazon
Rakuten_logoRakuten

このルーターのスゴイところ

  • 海外メーカーなのにIPv6(IPoE)に対応
  • Wi-Fi 6(IEEE 802.11ax)で5GHz 6ストリーム 最大4803Mbpsの通信が可能
  • これだけの機能と性能にも関わらず、たった1万円強という驚きのコスパ

これまでも国内メーカーの無線LANルーターならば同程度の機能と性能を有する製品は存在した。当然それらはハイエンドモデルの扱いで、価格が2~3万円台と大変高価だった。

そんな手の届かない価格帯のルーターを、TP-LINKはいきなり1万円近く引き下げ、気軽に買えるハイエンドルーターとして日本に送り出した。

私は長年NECのAtermユーザーであり、TP-LINKに加担する気はないつもりだ。しかし、この製品ばかりは全体のバランスと価格の面で評価できる。

スゴイところで挙げた3つの特長をそれぞれ噛み砕いていこう。

無線LAN規格Wi-Fi 6
IEEE 802.11ax/ac/n/a 5 GHz
IEEE 802.11ax/n/b/g 2.4 GHz
無線LAN速度
(802.11ax接続)
5 GHz: 4804Mbps (HT160)
2.4 GHz: 574Mbps
Wi-Fi範囲目安:4LDK
同時接続台数80台
高性能固定アンテナ × 6本
ビームフォーミング
Wi-Fi暗号化WPA
WPA2
WPA3
WPA/WPA2-Enterprise (802.1x)
有線LANギガビットWANポート× 1
ギガビットLANポート× 4
IPv6 IPoE対応v6プラス・v6アルファ
DS-Lite
その他MU-MIMO
NAS機能(USB3.0ポート有)
Time Machineサーバー可
VPNサーバー機能
-OpenVPN, PPTP
メッシュWi-Fi機能(OneMesh)
本体サイズ272.5 × 147.2 × 49.2 mm

IPv6(IPoE) に対応

ASUSやNETGEARといった海外製のハイエンドルーターが長らく対応してこなかった、IPv6(IPoE) のv6プラス、v6アルファ(OCNバーチャルコネクト)、およびDS-Liteに対応している。

ここ最近、国内メーカーが販売したルーターでは、IPv6(IPoE)に対応した製品も多くなってきた。しかし、安価で高性能な製品を販売する海外メーカーでは当然のごとく、おま国仕様のIPv6(IPoE)に見向きもしない。よって、IPv6(IPoE)利用者は数少ない国産ルーターの中から選択するしかなかった。

そこにTP-LINKがIPv6(IPoE)対応のハイエンド無線LANルーターを投入した意義は大きい。

Archer AX73の初期ネットワーク設定画面
IPv6(IPoE)利用者は、Archer AX73を未セットアップの状態でもONUに接続するだけでネットに繋がる。自動検出とはいえ、何も設定が要らないことに驚いた

大手プロバイダのIPv6(IPoE)方式と、Archer AX73での対応可否をまとめると次のようになる。

MAP-E方式のIPv6(IPoE)

サービス名v6プラスv6アルファIPv6オプション
IPv4 over IPv6方式MAP-EMAP-EMAP-E
提供プロバイダDMM光
GMOとくとくBB
@nifty光
So-net
OCN光ビッグローブ光
Archer AX73
対応可否
○※
(Twitter情報)

(仕様明記なし)

※v6アルファ(OCNバーチャルコネクト)は、Archer AX73の製品サイトで「対応」と謳っていたが、実際のインターネット接続選択画面には出てこない。Twitter情報によれば、OCNバーチャルコネクトでも利用できたそうだ。

DS-Lite方式のIPv6(IPoE)

サービス名transixクロスパス
IPv4 over IPv6方式DS-LiteDS-Lite
提供プロバイダエキサイトMEC光
IIJmioひかり
ドコモ光(net)
enひかり
Rakuten光
Archer AX73
対応可否

自宅はRakuten光なので、DS-Lite(クロスパス)で使用可能なハイエンドルーターをずっと待っていた。クロスパスに対応したルーター自体が数少なかったので、予約してまで購入したルーターは人生で初めてだ。

国内メーカーのルーターではDS-Liteを購入時の状態では使えず、ファームウェアをアップデートすることで使用可能なるパターンが多い。

一方のArcher AX73は、購入時の状態からDS-Liteのネット回線で使える強みがある。ネット回線が使えない状態でのファームウェアのアップデートは難儀なので、工場出荷時からIPoEに繋がる点は本当にありがたい。

今回、Rakuten光の特典で付属してきた安価なWi-Fiルーター(Aterm WG1200HS4) との速度比較も行ったので、そちらは後述する。

Wi-Fi 6で5GHz 6ストリーム 最大4803Mbpsの高速通信

Archer AX73には、TP-LINKの代名詞とも言える大きな外部アンテナが6本付属し、6ストリーム最大4803Mbps(理論値)の無線LAN通信に対応している。

このルーターの唯一の欠点は、本体とアンテナのサイズだろう。日本の狭い家屋では、大型かつ威圧的なアンテナを持つルーターを置く場所は限られてくる。

Rakuten光加入時に特典で付属したAterm WG1200HP4とのサイズ比較
Rakuten光加入時に特典で付属したAterm WG1200HP4との比較。
TP-LINKのルーターはとにかくどれもデカイ

Archer AX73はAX5400というクラスに属し、AX5400と銘打っている他社製のルーターと同等の無線性能(6ストリーム 最大4803Mbps)となる。

子機側が6ストリームのWi-Fiに対応していない場合がほとんど(Intel AX210くらい)なので、最大通信速度はあってないようなものだが、ストリーム数が多いということは子機の同時接続台数が増えた場合でも安定したWi-Fi通信が可能となる。

ハイエンド機になると8ストリーム以上の機種も存在するが、6ストリームのAX5400を採用したところが一番の価格の抑えどころだろう。

たった1万円強という驚きのコスパ

別の製品についても紹介しよう。これまで紹介したArcher AX73の特長である、IPv6(IPoE)対応と6ストリームのWi-Fi 6を搭載し、競合製品として存在するのがBUFFALOのWSR-5400AX6だろう。こちらも同じAX5400のクラスを採用しているので、無線性能は同等のはずだ。

競合製品となるWSR-5400AX6
競合製品となるWSR-5400AX6の外観。
アンテナ内蔵で見た目もすっきりしている

Archer AX73が発売されていなければ、このWSR-5400AX6を購入していたと思う。アンテナ内蔵で見た目がスリムであり、シャンパンゴールドのカラーが他にはない色合いでカッコいい。発売時からずっと目をつけていた。

しかし、WSR-5400AX6の実売価格は16,000円であり、Archer AX73の価格(実売14,000円)と比べるとひと回り高い。

Archer AX73は発売直後なので定価近傍での販売となっているが、TP-LINKのルーターは販売数ヶ月後に大きく値下がりすることが多いので、Archer AX73の価格が1万円を切ることもそう遠くはないだろう。

気になったところの紹介

大きすぎるゆえ、設置場所に悩む

前述したように、Archer AX73の購入を検討するにあたり最も悩むのは本体サイズだろう。

Archer AX73はA4雑誌サイズとほぼ同等
Archer AX73のサイズ目安として、A4雑誌分のスペースが必要となる

設置するためには、NTTから貸出されているONUの近くにこのサイズのルーターを置くスペース確保が必要となる。

私の場合は、写真のようにとりあえず積んでみたが、外付けアンテナが子供にもぎ取られそうなので、手の届かないところの置く必要がある。ペットを飼っている人も注意しなければならない。

置き場所に困るArcher AX73。子供の手の届かないところに置きたい
ツッコミどころ満載だがちょうどよく積めた(夏の排熱と子供が危険すぎる)

理想の設置箇所としては壁面にルーターを掛けることだろう。本体裏面に掛け時計と同じようなフック穴が空いているので、ネジなどを活用して壁に固定できる。当然、賃貸の場合は難しい。

ちなみに、ACアダプターは普通サイズ。ワガママを言えばAtermのようにACアダプタとプラグ部は別々が良かったが、これもコストダウンの一環だろうか。

Archer AX73のACアダプタサイズ目安。一般的なサイズで困ることはない
ACアダプタはトーマスの友達(アシマ)よりも小さい。一般的なサイズ
Archer AX73の背面に並ぶポートとスイッチ類

Archer AX73の背面にはWAN/LANポートが並ぶ。アクセスランプもコストダウンのためか省かれている。TP-LINKのルーターには電源スイッチがある点も特長のひとつ。何気にあると便利。

設定画面の情報

TP-LINKのルーターを触ったことがある人ならば、設定に迷うことはまずない。Archer AX73の設定を一通り触ってみたが、玄人向けという訳ではなく、あまりネットワークに自信がない人でも、初期設定の状態で十分な性能が出るようになっている。

設定をいろいろ触りたい!という人は、まずはここから。「ワイヤレス設定の」ワイヤレス ラジオのチェックを外すことで、Wi-Fi のチャンネルなど詳細な設定ができるようになる。

Archer AX73のワイヤレス設定画面
ワイヤレス設定画面。初期状態ではとてもシンプル

TP-LINKと言えば、以前問題となったNTPサーバー参照先が福岡大学になっていた件で気になる方もいるだろう。Archer AX73のNTPサーバーは初期状態でNIST(アメリカ国立標準技術研究所)を指定していた。

Archer AX73のNTPサーバー設定画面。任意で参照先を設定できる
Archer AX73のNTPサーバー設定画面。任意で参照先を設定できる

最後に、セキュリティ設定でこれが正しいのか分からないのが1つ。

DS-Liteの場合は、SPIファイアウォールの設定変更ができない。

IPv6(IPoE)ではセキュリティ上、SPIは必須だと認識しているが、グレー状態のトグルスイッチはSPIが働いているという証で良いのだろうか。それとも注意文面の誤りだろうか。

この表示はSPIが機能してるってことで良いの?

と、ひと通りArcher AX73の設定をいじって遊んだものの、ケチを付ける点はファイアウォールの表記くらいだ。国内メーカーのルーターと比較するとカスタマイズ可能な項目が多く、パソコン好きにも納得の1台だろう。

Archer AX73の性能測定

Rakuten光のキャンペーンで付属してきたNEC製Wi-Fi 5ルーター「Aterm WG1200HP4」との比較になる。Wi-Fi 6ルーターとの比較ではないのでご承知いただきたい。

それぞれのルーター性能の違いは以下のとおり。ストリームとアンテナ数が全く異なる点がポイントだ。

TP-LINK
Archer AX73
NEC
WG1200HP4
無線LAN規格Wi-Fi 6
IEEE 802.11ax/ac/n/a
Wi-Fi 5
IEEE802.11a/b/g/n/ac
無線LAN速度(規格値)4803Mbps867Mbps
ストリーム数62
アンテナ数62
有線LAN1000Mbps1000Mbps
実売価格14,000円6,000円

なお、計測したクライアントPCのネットワークカードは以下のとおり
– 有線LAN:Realtek RTL8111H / ギガビットLAN
– 無線LAN:TP-LINK TX3000E (AX200) / Wi-Fi 6対応

ルーターとクライアントPCの距離は、直線距離で5m離れており、木製の壁2枚が間に挟まっている。

インターネット接続速度の計測

回線速度の計測にはiNoniusスピードテスト(https://inonius.net/speedtest/)を利用した。IPv4とIPv6の両方の計測が同時に行える点と、計測方法が比較的オープンなこともあり信用している。

特にIPv4の回線速度は時刻によって変わりやすいので、できるだけ同時刻に計測した。

有線LAN接続時

TP-LINK Archer AX73
Rakuten光の利用者の中でTop 5%を取れた

▼NEC Aterm WG1200HP4

有線LAN接続時でもルーターによってDownloadの速度に明らかな違いが出ている。基本は有線LAN接続が好みなので、この結果だけでも素直に嬉しい。なお遅延やジッタには大きな差が出なかった。

Wi-Fi接続時

前提として、どちらのルーターもチャンネル幅、チャンネルを最大性能に調整した状態で計測した。

▼TP-LINK Archer AX73
▼NEC Aterm WG1200HP4

Download、UploadともにArcher AX73が大きく上回る結果となった。とくにDownoadは両機の間で倍以上の速度差が開いている。

Rakuten光の利用者でインターネット回線が遅いと感じている人は、ルーターを交換してみると大きな効果を得られるだろう。安価なルーターから交換することでIPv6(IPoE)の本当の性能を体感できる。

その他の計測

Archer AX73のWi-Fi設定を細かく変化させた場合の
– インターネット回線速度
– ローカルネットワーク速度
– RSSI(受信信号強度)
を計測したのだが、グラフの作成に時間がかかるので、今回はここまでとしたい。近日中に公開する。

正直なところ、Archer AX73 でWi-Fi 5を使用した場合でも、Wi-Fi 6で接続した場合でも、ほぼ変わらない通信速度となった。Wi-Fi 6に対応したデバイスを持っていなくても、このルーターの恩恵はきっと受けられるだろう。

まとめ

最初に紹介した、Archer AX73の特長はご理解いただけただろうか。

  • 海外メーカーなのにIPv6(IPoE)に対応
  • Wi-Fi 6(IEEE 802.11ax)で5GHz 6ストリーム 最大4803Mbpsの通信が可能
  • これだけの機能と性能にも関わらず、たった1万円強という驚きのコスパ

IPv6(IPoE)を使っていて、Wi-Fiの電波強度や通信速度に不満のある人には最初におすすめしたいルーターだ。同じ性能・機能を有するルーターの中でも最もコスパに優れているのには間違いないが、その大きさゆえ「場所を取る」ことだけは覚えておいて欲しい。

さぁ、はじめにArcher AX73をどこに置こう?から考えよう。置く場所が見つかったらIPv6(IPoE)のインターネットをさらに快適に利用できる環境が待っている。

Archer AX73 Wi-Fi6 無線LAN ルーター
TP-Link
Archer AX73 Wi-Fi6 無線LAN ルーター
Amazon_logoAmazon
Rakuten_logoRakuten

3 COMMENTS

アバター u

楽天ひかりが開通する前に、Archer AX73を買いました。とても参考になりました!ありがとうございます。

返信する
mimo mimo

コメントありがとうございます。
以前はRakuten光のキャンペーンで記事中のルーターを貰えたのですが、今はないのですね(なかなか渋い)。
Rakuten光(クロスパス)が使えるルーターの中では少々値は張りますが、ファームウェアを更新しなくても最初からネットに繋がることや、性能を勘案すると私としては良い選択だと思います。

返信する
アバター 村雨

楽天ひかりに加入し、ルーターを新調しようと考え、AX73とAX5400は何が違うのか疑問が生じたので調べていたところこのサイトにたどり着きました。
結局同一製品、という認識に落ち着きました。購入確定です(笑)
ネット素人ですが、とても分かりやすくて助かりました。

返信する

mimo へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です